物理の小道


日本橋だより 〜現況報告と雑感〜

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2004/10/14 ロボット研究  第4回 (日本橋だより 旧第36回)

    〜 「2軸(X-Y)加速度計」の製作と実験報告 〜


秋月電子で購入した「2軸(X-Y)加速度計キット

 8月9〜11日にスパーサイエンスハイスクール(SSH)生徒研究発表会が東京・ビッグサイトで開かれ 全国のSSHから生徒の発表がありました。 神戸高校からは1年生の生徒3名を連れて筆者も参加するため東京出張となったのでした。 夕方、秋葉原・秋月電子へ出向き、購入したのが今回の「2軸(X-Y)加速度計」です。 (詳細は、第28回第29回 を参照のこと) 今回はこのとき購入した「2軸(X-Y)加速度計」についての話題です。

 「2軸(X-Y)加速度計」 キットは、 2軸加速度センサー(ADXL202E)をワンチップマイコン(PIC16F84A)を用いてコントロールするもので、 加速度の測定分解能は 0.001G(1mG)(注) とあります。 センサーコントロールおよび測定データはRS232C端子を通してシリアル信号で行います。 約4cm×3cm程度の専用プリント基板、RS232C端子(ミニDサブ端子)も付属。 その他、RS232C接続コード1本と、 加速度計テスト用のWindowsソフトウエアがCD−Rに書き込まれたものも付属していました。 価格は4,500円でした。

 注: 加速度1G: は、重力加速度 9.8m/s2の大きさの加速度を意味する。
    秋月電子: このキットは月刊雑誌「トランジスタ技術」(CQ出版)巻末にある通販広告が載せられています。そこで購入が可能です。

 加速度センサーそのものは専用基板に取り付け済み(上写真の右上部)です。 したがって、専用プリント基板に取り付けなければいけない部品は、 ワンチップマイコン用にICソケット1個、マイコン用クロック素子、 ダイオード(電源用)1本、緑LED(動作表示用)1本、入出力用のDサブ端子(RS232C端子)のみです。 半田付けに慣れている人なら簡単に済みます。 駆動電源はRS232C端子の信号から整流して作り出す方式で特に準備する必要はありません。

 この加速度計の測定分解能 1mG ですので、目的とするロボットの姿勢制御には使えそうです。 傾斜角1度で 17mG 程度の変化に相当しますので、1度程度の傾斜は容易にセンスできそうです。 測定データの入出力フォーマットはプレーンテキスト形式(注)ですので、 RS232C端子を使ってパソコンとのデータ送受信は簡単です。

 注: プレーンテキスト形式 暗号化、コード化など、加工されないそのままの文字形式。

2軸(X-Y)加速度計(ハードウエア)の製作

 このキットは専用基板を使っているので、配線間違いもなく、 部品数もわずか数点しかないので、半田付け箇所が計30箇所程度(ほとんどがワンチップマイコン用のICソケットの足)しかありません。 部品端子の極性に注意するくらいでしょう。 今回の製作の場合、袋を開けて説明書を読みながら20分以内に半田付け作業・確認まで全て済んでしまいました。 半田付け箇所は標準ピッチ(0.1インチ間隔)ですので難しいところはありません。 難しかったのは、熱容量が大きなDサブ端子の半田付けでした。 使用した半田ごてがIC/LSI用の「20W」タイプと小さ目だったため、パワー不足で苦労した位です。 この部分は30〜40Wクラスの半田ごてが欲しいところでしょうか。 拡大鏡で半田付け部分が隣の端子にブリッジしていないかなどの半田付け部分の最終確認を済ませて、 次は動作テストを行うだけです。

2軸(X-Y)加速度計(ソフトウエア)のインストール

 キット付属の加速度計動作テスト用のソフトウエアをWindowsパソコンにインストールしなければなりません。 また、この加速度計はRS232Cインタフェースを介してパソコンで制御するものです。 そのため、RS232Cが備わったパソコンが必要になるのですが、 手持ちのノートパソコンにはRS232C端子がありません(ほとんどのパソコンがそうです)。 そこで、RS232C端子が備わったデスクトップのWindowsパソコン1台に、 テスト用のソフトウエアをインストールしました。 ソフトのインストールは同梱のCD−Rの中のにある、Windows用(MSDOS用も同梱)のセットアッププログラムをクリックするだけで簡単に終了しました。 以上で、ハードウエア、ソフトウエアの両方の準備が完了しました。

基板の短辺方向がX軸、長辺方向がY軸になっている

 パソコンのRS232C端子と加速度計のRS232C端子を接続ケーブルで相互に接続して、 パソコンの電源スイッチを入れると、 パソコン起動、Windowsが動き出すと共に、 加速度センサー基板上の緑色LEDが2秒ほど点滅し、正常に作動していることを示してくれます。 テスト用のソフトウエアを起動し、画面上のスタートボタンを押すと正常に測定を始めてくれました。 加速度をグラフに表示してくれるので、加速度の変化が良く分かります。 基板を手で持って傾けたり、振り回したりすると、XY軸のそれぞれの向きの加速度変化がリアルタイムでパソコン画面上に表示されます。 説明書にある 0.001G(1mG) の分解能は無理(測定ノイズのため)なようですが、0.01G の違いは良く分かります。 平均化などの処理を行えばノイズ成分も抑えられ、さらに正確な測定も可能です。 実験結果からみると、専用基板の短辺方向がX軸、長辺方向がY軸になっていました。 今回の「2軸(X-Y)加速度センサー」(4,500円) は十分な機能を果たしてくれるものになりそうです。



2004/10/15 管理人(志)



追補: 加速度計の原理

 直接加速度を測ることは出来ません。では、どのよにして加速度を測るのでしょうか。 物理で習う「慣性力」という力の話をご存知でしょうか。この慣性力を利用して加速度を測るのです。
 加速度センサーの内部にある小さな物体が弾性体を介して固定されています。 過疎緯度センサーが加速度をもって動くとします。 このとき生じる慣性力が弾性体にひずみを起こします。 このひずみ量を測定することでセンサーの加速度を求めることが出来るのです。

慣性力を使って加速度を測るのだ

 加速度センサーにかかる加速度により弾性体にひずみ量が生じますが、 そのひずみ量は「ストレインゲージ」を用いて測定できます。

 ひずみ量x、力 F とすると、F = k x と表せることになります。なお、k は弾性定数です。
 また、慣性力の大きさは F = m a (m はセンサーの慣性質量)と表せるので、 センサーの加速度 a = F/m = (k/m) x となり、ひずみ量 x から、加速度 a が分かるのです。

 実際には、ストレインゲージの弾性定数 k の温度係数などがゼロでは無いので、 温度変化などによる測定データへの影響を打ち消すために工夫が施されています。

重力による加速度計への影響とは

 この2軸(X-Y)の加速度センサーの場合、このようなセンサーが2つ直交配置して取り付けられているのです。 この2つのセンサーにより、XYそれぞれの方向の加速度を測定します。
 基本的には上の説明通りで良いのですが、現実は重力成分が同時にセンサーのひずみ量に加わります。 したがって、測定されるセンサーのひずみ量は慣性力に重力成分が加わったものになります。 加速度計を傾いた状態で取り付けた場合は、静止していても重力成分が加わります。 その場合は静止していても、測定される加速度がゼロにはならないのです。 重力成分による影響を出さないためには、センサーを厳密に水平になるように取り付けることが必要です。

傾斜計としての利用法

 重力によるひずみを逆に利用する場合もあります。 センサーを固定して、センサーの加速度がゼロ(静止したままの設置)であるなら、 センサーの傾きにより、重力の成分 Wx = mg sinθ の力がセンサーに加わり、 これにより、加速度計が a = g sinθ の加速度を計測でき、 傾斜角θが測定できることになるのです。 このことから「加速度センサー」は「傾斜計」としても使えることになります。 測定感度は微分係数により決まるので、傾斜角θが小さい程(水平)良くなることが分かります。 また、傾斜角が大きい(鉛直)ときは、その反対に測定感度が悪くなります。

2004/10/15 管理人(志)

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このページは、2004/01/26 に始まりました。